- 教員紹介
AI(人工知能)と人間のWell-being のための学び / 山田 恒夫 教授

教育テック大学院大学客員教授、付置教育テック総合研究所上席研究員の山田恒夫です。教育テック大学院大学では、「教育構想演習」(いわゆる「ゼミ」)のほか、「教育デジタルエコシステム」に関する授業を担当しています。ライフワークは、学習理論の体系化になります。学習の諸相を学ぶため、さまざまな動物の学習を見てきました。ネズミ(ラット)、ハト、チンパンジー、キュウカンチョウ、キエリボウシインコ、セキセイインコ、ヒト、そして機械(1990年代のAI)などです。
人間は己を理解する前に、そのコピーを作ってしまった!?
2022年11月のChatGPTの出現以降、AIの社会進出、教育利用の普及にはすさまじいものがあります。「高機能の検索ツール」とか「自然言語によるプログラミングツール」といった趣であったものが、いまではAIとのコミュニケーションしている錯覚に陥るところまで進歩してきました。昨今の「AIエージェント(AI Agent、Agentic AI)」は、これまでの生成系AI(Generative AI)技術をもとに、利用者や機能をある程度限定しながらも自律化を進めたAIと考えられます。人間から細かな指示がなくても期待する結果をもたらす一方で、いまのところ、文章作成・イラスト作成といった作業、あるいは適用する業種や業務などに、得意分野があってオールラウンドではないということです。ただ、AI Agentでは組み合わせて高度な処理を実現することも考えられていますので、AGI(Artificial General Intelligence、汎用人工知能)を実現する1つの方法となるのかもしれません。
さて、本来であれば、AIが人間の知的活動のみならず、主観的な価値生成を含む情動・情緒活動に影響を及ぼす前に、人間の存在理由や、人間を人間として特徴づけている固有の特性(機械にできないこと、あるいは機械にまかせてはいけないこと)、そしてその特性を実現する生物学的メカニズムを明らかにしておくべきだったと思います。しかし、研究者の間では、AI等情報システムの研究が人間や生物の脳システムを明らかにする手段であるとの考え方も根強い一方、便利なツールとしての開発競争はすでに始まっていて、最終目標の実現(人間を超える超知能の実現)あるいは地球規模での破局まで立ち止まることはないでしょう。ただ、あまり悲観的である必要はありません。その過程で、その境地に達することはまだ可能だからです。
人間をリバースエンジニアリングすると
人間は「万物の霊長」といわれますが、どうもわれわれ現生人類の発明ではなさそうです。AIはまだ現生人類の発明といっていい段階ですので、われわれの開発物が、発明者(人間)のWell-beingを阻害しないよう、対策(いわゆる「ガードレール」)を用意する必要があります。ニューラルネットワークモデルに典型を見るように、現在のAIシステムは、人間あるいは生物の機構をまねることで着想をえてきました。このガードレールの要件についても、人間を例に考えるとわかりやすいと思います。
人間の知的活動にとっての制約条件とは何か考えてみましょう。まず、個体同士で、脳というハードウエアやそのアーキテクチャー、コンテンツをそのまま複製できないし、モニター装置ともいえる「意識」を直接体験することもできません。その共有には言語や数式、イメージで表現しますが、こうしたメディアを介してのコミュニケーションは不完全で、言語や方言が異なると意思疎通が困難になったり、また時間経過や居場所の変化によって意味が変わる可能性があります。そのうえで、人間には寿命があり、どれだけ知識を蓄積してもスキルを磨いても一代かぎりで、データのフルセットを他個体に継承することができません。これからのAIを考える場合、人間にとっての、これら制約をはずしてしまうと、つまりハードウエアは自己再生でき、データは際限なく学習複製でき、ネットワークも自在ということになると、ひとりの人間1個体としてみても、人類というコミュニティとしてみても、凌駕されるのは時間の問題ということになります。
ひとりひとりの人間に向き合ったAIエージェントも必要
AIは人間とともに学び成長することで、人間のよき伴侶となり、Well-being実現の要因となるのではないでしょうか?
現状ではまだバラ色の未来も暗黒の未来も描けるわけですが、今われわれひとりひとりが人間としての存在意義と人生の目標を問い直し、そのうえでAIとの関係性を構築していく必要があるようです。現在われわれの多くは、インターネットに接続する高性能のコンピュータをもっています。日本の小学生・中学生には、文部科学省のGIGAスクール構想により、ひとり1台のインターネット端末が配布されました。近未来では、ここにエッジ型AIエージェントが搭載されることになる可能性があります。学習端末で扱う学習履歴データの多くは個人情報を含むパーソナルデータであり、これはデータ主体であるわれわれひとりひとりが管理すべきものです。こうした意味でも、ユーザの学習端末にあるパーソナルAIがエッジ側でデータ管理を行う意味があります。このパーソナルAIは、人間を凌駕する超知能の指導者というよりは、ひとりひとりの人間によりそって支援してくれるパートナーやサポータという存在に近いのではないでしょうか。これは、個人の成長とともに、いっしょに成長してくれる存在で、エモーショナルな存在、パーソナリティをもつはずです。AIリテラシーとは、われわれ人間が生涯を通じて、AIと共生できる関係を模索・確立する能力を身に着けることを意味するのかもしれません。今後本学でも、学校教育のみならず、ノンフォーマル教育を含む生涯学習者の目線でパーソナルAIにはどのような機能が必要か、共生的な関係を維持していくのにどのような規範や枠組みが必要か、人間のWell-beingの実現のために、われわれと機械それぞれの学びはどうあるべきかを研究し、AI時代の教育に位置づけることができればと思います。