- 教員紹介
多様な視点から教育事象を考える -身近なところにヒントはある- /藤本 典裕 教授

教員をめざす学生の視点をずらす
私は、かなり長いあいだ、大学の教職課程で教員をめざす学生とともに学んできました。そこで出会ってきた学生は、良くも悪くも「真面目な」、少し意地悪く言うと「面白みに欠ける」学生でした。
真面目であることは大切なことですが、それまでに経験してきた学校教育を特に疑うことなく受け入れているように感じました。もちろん、それぞれに多くの不満や疑問を感じていたとは思いますが、それを自覚的に問題視することには不慣れだったように思います。学校で行われている教育がそういう学生を育ててしまったということもできるでしょう。
学生のほとんどは教員免許状を取得して教員になることをめざしていました。その学生が教育のあり方に疑問を持ち、自分で考え、打開策を模索できるようになってほしいと考えてきました。
そのために、授業では、普段は考えることのないような問いを発するようにしていました。たとえば、
「犬のぬいぐるみに『お手』を教えたことがありますか?」
「ライオンの親は子どもライオンを『教育』しているのでしょうか?」
といった問いかけです。
ここでは、それぞれの答えやそこから考えてほしいと思っていたことは省略しますが、こうした問いを投げかけられた学生ははじめは戸惑ったような表情を浮かべていましたが、説明を聞きながら少しずつ考えを進めてくれたと思っています。
学校事務職員という視点から教育・学校をみる
私は、大学院生時代から、長く学校事務職員の方々と一緒に勉強することで、少し違う角度から学校教育をみることができたと思っています。
学校事務職員は授業をするわけではありませんが、学校教育法が規定する学校に必置の職です。
学校予算の執行や教員の旅費その他の経費の執行などを担当していますが、授業の質に関わる仕事も行っています。教員の授業計画をきき、教員とともに教材の選定を行うことで、児童・生徒の学習をスムーズで、より深いものにしています。
また、保護者からの学校納付金を扱うことで、家庭の経済状況を知り、就学援助制度の活用につなげるなど、教育保障の重要な役割も担っています。 学校の情報化が進むなか、教員の教育活動・子どもたちの学びにICT機器が活用されるとともに、学校事務にも導入され業務の効率化が進められています。機器の導入ありきではなく、それが教育・学びの質をどのように高めていくのかを全教職員の協働のなかでさらに検討し実践することが求められています。私もそうした視点から勉強をつづけたいと思います。
学校事務職員の方々と話し、学校の実態をききとり、一緒に学ぶことは、私の教育に対する見方の幅を広げてくれたと思います。
この文章を書いていて、ある事務職員さんに言われたことを思い出しました。大学院生の頃の私の文章は「普通の人には理解できない、意味が分かりづらい変な文章」だったというのです。その後「最近の文章はようやく普通になったね」と言ってもらって、少し悔しくもうれしく感じたのです。
自分の思いや考えを他者に伝えることの大切さ・難しさと、そのための努力の大切さを教えられた思いです。
多様な視点から教育事象を考える
大学院ではゼミの他に「教育学特殊講義」という科目を担当しています。「特殊講義」という難しげなタイトルですが、かなり自由に話題を選んでお話しさせてもらっています。
受講する学生のみなさんの経歴や職業は多様で、これまでの教育経験も一様ではありません。大学の教職課程で学び、教員免許状を取得して教員になった人もいれば、教育について学んだことはほとんどないという人もいます。
授業では、できるだけ多様な視点から教育事象を考えることを試みました。
人間という生物の特性、その成長・発達、人間の文化とその伝達の様式、学校という制度の特性や問題点、教育に関わる法制度の理念と実態、などを取り上げました。
今年度は初めての授業でしたので、まさに手探りの状態でした。フルオンラインでの授業経験も少なく、機器の操作にも不慣れな面があったので、受講生には分かりづらいものになってしまったと反省しています。
また、私が一方的に話す時間が多くなってしまったことも反省点です。
それでも、教育についてこれまで考えたこともなかった視点が得られたなどの感想が寄せられました。
受講生との対話、受講生同士の意見交換の時間を増やし、多角的な学びを実現することが課題です。
プライベートなことも少しだけ

これが私です。(図1)
ある学生が試験の答案用紙に描いてくれた似顔絵です。答案用紙に描くとはなんとも「勇気ある」学生ですが、結構似ていると思うので、あちこちで使わせてもらっています。
私はクラシック音楽が好きです。コンサート会場に出かけることはほとんどないのですが、CDなどでよく聴いています。
高校生時代に、ベートーヴェン、ブラームス、モーツァルトなど、誰もが知っている「名曲」を避けていたことがありました。その作曲家や曲がというよりも、そういう「名曲」をありがたがって聴いている自分が嫌いになったというのが正直なところです(なんとへそ曲がりな!)。その後いろいろあっていまは古典から現代音楽までかなり幅広く聴いています。
いま、うちには猫が3匹います(図2)。どれも保護猫ですが、それぞれに個性があって、いっしょにいて、いつも新しい発見の連続です。
猫といる時間はとても大切です(猫好きの人には説明の必要はないですね)。漱石の猫もホフマンの猫も、そしてはるき悦巳の猫たちも私には大切な存在でしたし、いまでもそうです(こちらは、特に最後のはるき悦巳は知らない人も多いでしょうか)。
みなさんと、授業のことだけではなく、音楽や猫の話もできればいいですね。
