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カンボジア調査報告 ― 教育・社会イノベーション・農村開発から探るサステナブルな社会への道筋 ― 教育テック大学院大学 教授 大和田順子
1 調査の背景:教育と社会課題を結ぶ現地調査
2026年2月12日から16日まで、カンボジアを訪問し、人材育成、日本語教育の現状、農業・農村における脱炭素などについて現地調査を行いました。本調査は、龍谷大学の研究プロジェクト「脱炭素社会実現に向けたJust Transition(公正な移行)の理論と実践に関する研究」の一環として実施したものです。ジャスト・トランジションとは、気候変動対策や脱炭素社会への転換を進める際に、環境だけでなく人々の暮らしや仕事にも配慮し、地域社会が不利益を受けない形で持続可能な社会へ移行していくことを目指す考え方です。
カンボジアは1975年から1979年にかけてのポル・ポト政権下において、教師や知識人、専門職など多くの知識層が犠牲となり、教育制度や社会基盤が壊滅的な打撃を受けた歴史があります。
教育テック大学院大学の私のゼミには現在、カンボジアからの留学生が3名在籍しています。農村地域の子供たちへの日本語教育、ビジネス日本語の向上、農村地域の持続可能な発展など、自国の社会課題をテーマとした研究に取り組んでいます。今回の調査は、こうした研究テーマの背景となる社会状況を現地で把握することも目的として実施しました。プノンペンおよびシェムリアップ周辺地域において、教育機関、国際協力機関、社会起業団体、金融機関などを訪問し、カンボジア社会の現状を多角的に訪問・調査しました。
2 ゼミ生の母校、プノンペン大学を訪問―日本語教育の現状
日本語教育に関しては、ゼミ生の母校であるプノンペン王立大学日本語学科を訪問しました。日本語学科を2005年に設立されたロイ・レスミー先生らと日本語教育の現状について教員の方々と意見交換を行いました。コロナ禍以降は日本語学科の入学者数の伸びが課題となっているとのことでした。そのため、卒業生を地方の高校に派遣して日本語授業を行うなど、日本語教育の裾野を広げる取り組みが始まっています。さらに、学生とともに校庭の一部を活用してハーブやバナナを栽培するなど、環境や農業をテーマとした実践的な教育活動も行われており、地域課題をテーマとした探究学習の可能性についても議論を行いました。

3 農村社会の暮らし、教育実践
農村・農業については、JICAカンボジア事務所を訪問し、農業・農村地域における気候変動対策や農業支援の現状についてヒアリングを行いました。カンボジアでは農業が主要産業である一方、気候変動の影響も大きく、持続可能な農業への転換や農村の生計向上が重要な政策課題となっています。
今回の調査では、シェムリアップ近郊の農村地域も訪問しました。現地では、日本の団体が運営する「SALASUSU」を訪問。同団体では、手工芸の製作支援に加え、地元の教師や子どもたちを対象とした教育活動も行っており、日本で開発された協働学習の手法「学びの共同体」を取り入れた授業実践が行われています。

その晩は、農村家庭にホームステイしました。水道の無い暮らしや、家族・地域コミュニティの生活を体験することができました。庭では鶏が自由に走り回り、バナナや野菜、ハーブなどが育てられており、お米は自分たちで作っているそうです。庭の鶏や近くの池の魚が食卓のごちそうになり、夜はカヤを吊った部屋で休みました。地域の人々の自然と共生する生活の姿を垣間見ることができました。こうした体験は、農村社会の現状や人々の暮らしを理解するうえで非常に貴重なものでした。

4 地域資源を活用した新しい仕事づくり
また、同地域では、日本人の若者が立ち上げた社会起業「Kumae」の取り組みも視察しました。バナナペーパー製品の製造、養鶏、コオロギ養殖など、地域資源を活用したビジネスを通じて農村の所得向上を目指す取り組みが進められています。 カンボジアでは廃棄物処理が埋め立て中心であり、「ゴミ山」で資源を拾って生活する人々も存在します。こうした状況の中で、地域に新しい仕事を生み出す社会起業の取り組みは、持続可能な地域づくりの重要な実践例であるといえます。

5 教育と国際協力によるサステナブル社会の共創
調査4日目には、プノンペン大学の卒業生や本学大学院への進学を希望する方々など計8名が参加する懇談会とワークショップを、学校法人OCC海外事業部の現地オフィスの協力により開催しました。前半では大学院の教育内容や、院生の研究テーマなどについて紹介しました。

後半は「カンボジアにおけるジャスト・トランジション」をテーマにワークショップを行い、都市グループと農村グループに分かれて意見交換を行いました。参加者からは、太陽光などのクリーンエネルギーの導入、農業の気候変動対策、新しい仕事のための教育や研修、貧困層も利用できるエネルギー供給など、環境と生活の両方を守る社会のあり方について多くの意見が出されました。
最終日には日本大使館や金融機関、そして日本人が運営する無償の日本語教室「ひろしまハウス」も訪問しました。ここでは低所得地域の子どもたちを対象に日本語教育と学習支援が行われており、子どもたちは日本語で自己紹介や将来の夢を語るなど、学びへの強い意欲を見せていました。
カンボジアは急速な経済発展の過程にある一方で、農村の貧困や環境問題など多くの課題を抱えています。今回の調査を通じて、多様な主体が連携しながら、教育、人材育成、社会起業、農村振興、国際協力など、持続可能な社会の実現に向けたさまざまな取り組みが進められていることを確認することができました。
今後は、本学大学院に在籍するカンボジア留学生の研究指導を通じて、教育構想実践書の作成や社会課題解決に向けた実践を支援していきたいと考えています。また、日本とカンボジアの教育機関、研究者、社会起業家、地域の人々と協働しながら、持続可能な地域社会の形成に向けた共創の可能性について、引き続き実践的研究を行っていきたいと思います。
大和田 順子 教授

OCC教育テック総合研究所 上級研究員。
2017年4月 – 現在 地域力創造アドバイザー(総務省)、2024年3月から和歌山県みなべ町を支援。また、デジタル庁「デジタル推進委員」なども務め、Society5.0時代の新しい学びの創造に取り組んでいる。
専門分野
- 事業構想学
- 環境創成学(環境政策・環境社会システム)観光学(地域振興)
- 社会・開発農学(都市農村交流)
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